癌増殖抑止VS癌化促進、癌基礎研究の方向性を示唆

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筑波大学大学院生命環境科学研究科の赤荻らは、癌増殖抑止能、癌化促進能という対立する報告がなされていた遺伝子Kruppel-like factor 4(以後、KLF4)が、女性ホルモン依存的な乳ガン増殖においては本遺伝子が抑制的に働くという細胞レベルでの研究成果を学術誌Oncogeneに発表した。

本論文において赤荻らは、同一遺伝子でも細胞の状態、癌の性質ごとにその振る舞いが異なる点を強調しており、今後の癌基礎研究では癌の性質、細胞の状態毎の詳細な研究実施が期待される。


癌治療においては、癌を増殖させないこと、そして異常のある細胞(癌細胞など)を速やかに細胞死に向かわせることが重要である。KLF4の生体内における働きとして細胞分裂因子抑制能と、細胞死抑制能の2つが報告されていた。このことはKLF4が潜在的に癌増殖抑制機能と癌化促進能の対立する2つの機能を有することを示している。

現在、女性の乳癌罹患率は、胃癌を超え現在第一位である。約20人に1人の女性が乳がんを経験するといわれており、その克服は極めて重要な問題となっている。今回赤荻らは、正常乳細胞と乳ガン細胞の遺伝子発現レベルを比較することで乳ガン細胞においてKLF4の発現が優位に減少していることを見出した。また、女性ホルモン依存的に発生率、癌増殖能が増加することが知られていた乳ガンにおいて、KLF4と女性ホルモン依存的に働く核内レセプターEstrogen Receptorα(以後ERα)の遺伝子発現パターンが顕著に一致していることを発見した。発現パターンの一致に加え、赤荻らは生化学的な実験手法を用い、細胞レベルでERαとKLF4が直接相互作用しており、KLF4とERαの相互作用が女性ホルモン依存的な遺伝子発現を抑制していることを見出した。更に、DNA損傷を受けた細胞を細胞死へ向かわせるために重要な働きをもつことが知られているp53がKLF4によるERαの遺伝子発現抑制を直接制御していることを、紫外線照射により人為的にDNA損傷させた細胞を用いて証明した。

本論文において、赤荻らは女性ホルモン依存的な癌細胞増殖においてKLF4が抑制的に働くことを証明した。しかしながら、KLF4が細胞死を抑制する機能を持つことも事実であることから、KLF4の働きは細胞の状態に依存することが予想される。今後の癌基礎研究においては、細胞の構成要素を踏まえた詳細な研究が実施されることが期待される。

KLF4 suppresses estrogen-dependent breast cancer growth by inhibiting the transcriptional activity of ERalpha.
Oncogene. 2009 Jun 8.
http://www.nature.com/onc/journal/vaop/ncurrent/abs/onc2009151a.html


所感:
同じ部位に生じた癌でも初期段階と、後期段階で薬の効き方が異なるという話はよく聞く。
「○○癌」とひとくくりにせずに、細胞の状態に応じたきめ細かい研究が必要なのだろう。