論文ねつ造は犯罪か?

科学者自身が最も犯してはいけないと考えている不正行為は、研究結果の「ねつ造」、「改ざん」、「盗用」だ。それにも関わらず、これらの行為に手を染める科学者は後をたたない。

原因を探る前に、研究業界における業績評価システムについて簡単にまとめておきたい。
科学者が行った研究結果は一般に論文という形でまとめ、学術雑誌に発表される。この論文が評価対象となるわけだが、この時、重要なポイントが2点ある。1点目は、点数は数でなく「この発見がどれだけ他の発見に影響を与えうるか」という視点で算出されること。これは、科学は連綿とつづく先人の成果の上に成立しているためなのだが、発表された時点ではその影響度を正確に見積もることはできない。そこで、掲載された学術雑誌の評価(インパクトファクター)が便宜的に使用される。つまり、評価の高い学術雑誌に掲載されればそれだけ業績があがるという仕組みだ。ちなみに、Nature, Scienceなど評価の高い学術雑誌の採択率は10%程度。狭き門だ。
2つ目の重要なポイントは、「誰が」著者かという点だ。研究・執筆した本人(First Author)の業績になるのはもちろんだが、もう一人、該当論文の内容に最終的な意志決定をした責任著者(Corresponding Author)の業績にもなる。この責任著者制度は化学や生物系にしか当てはまらないようだが、一般的に研究室のボスが引き受け、論文の内容に対する質問・相談などの連絡窓口となり、事後の一切を仕切ることになっている。


話を研究不正に戻す。
上記の評価システムを前提にすると、抜けているポイントがいくつかあることに気づく。まず、評価対象となる論文の真偽が誰からもチェックされていないという点だ。学術雑誌の審査官は論文用に体裁が整えられた結果を元に、オリジナル性、重要度、新規性のチェックを行うので、データが偽物だったとしてもほとんどの場合は気がつかないだろう。
2つ目は、連絡窓口が行方不明になりがちという点だ。科学者の流動性が高まっている昨今、First Authorが論文執筆時の連絡先に居なくなってしまう事は往々にしてある。そのためのCorresponding Authorなのだが、ことデータねつ造に関しては、Corresponding Authorは「本人がいないのでわかりません。」「すべて本人に任せていました。」と対応することが多いように思う。こうなると、論文の真偽は永遠に闇のままだ。

現在も研究業界には論文ねつ造疑惑が渦巻いている。その中には疑惑が真実ならば日本最大規模での論文ねつ造事件に発展しそうな件もある。自分の身近なところにでも調査委員会が設置されたと聞く。この件も残念ながらFirst Authorは既に卒業、Corresponding Authorである教授も退職しており、調査委員会はあるものの内容に責任を持つべき当事者は誰もいないようだ。


それにしても不思議なのは、データねつ造の発覚が続くにもかかわらず、不正防止策が「告発窓口の設置」と「科学者への啓もう」しかないということだ。また、ねつ造者への罰則の多くはアカデミアからの追放(退職)のみ。Corresponding Authorに到っては罰則無しの場合も散見される。事実であるはずのデータが偽造ならば、私文書偽造だし、「論文=業績」として認識されるならば、データねつ造した論文が書かれた経歴は詐称だし、科学者が使う研究費の多くが国家予算でまかなわれていることを鑑みれば偽造公文書の罪ではないだろうか。

アカデミアの健全な発展のためにも、なんとかできないものかと思う今日この頃なのであった。。