研究者による不正防止について

「研究者による不正防止」について議論され初めてから久しい。

この件に関して、よく議論されるのが、「研究者倫理の徹底」「研究者のモラル教育」。どれも大事な論点だと思うが、実際にどのように防止して行くのかということになると曖昧としている。

具体的な解決策の一つとして、ORI(研究公正局)の設置の必要性を感じている研究者は多いと思う。日本分子生物学会(バイオ研究における国内最大の学会)に興味深い記事が載っているので一部抜粋する。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/mbsj/admins/ethics_and_edu/doc/wakateWGreport.pdf
(2007若手教育シンポジウム@横浜)


文化省担当者と研究者とのやりとり(話言葉なので読みやすくなるよう一部加工)

研究者:(アメリカには)ORI(という組織があり)というのは、研究生を監視するだけでなくて、教育にすごい力を入れてるんですね。
だからそういう行政側のサポートも、僕はお願いしたいと思うんですけど、どうでしょう。

(・・・中略)

文化省担当者:・・・第三者機関って言いますけど、それもすごく責任の放棄であって、そこに十分な権限があればいいですけど、今の法制度でおいては、どっちが挙証責任があるかというと、処分したほうに責任がある。・・・となると、処分したときに、その裁判のときに負けることも覚悟しなきゃいけない。きちんと考えてから提案をされるのがいいと思います。

他の省庁(厚生労働省農水省等)もこの件に関しては同じスタンスらしい。(大学も独法化したんだし、そこまで面倒見ないよ。各大学・学会でがんばってと言うことだね。)

※各省発表があったはずなので、後でここに入れること。

次に問題となるのは、大学にこの件を扱える人材がいるかということだ。
大学には、事務、研究者(教授陣)の2種類の人材がいる。(学生もいるがここでは労働者を想定しているので除外する)


双方の中で、いままで大学運営について考えてきたのは研究者(教授陣)だろう。実際、大学ではさまざまな事柄が教授会できまっている。
ORI(研究公正局)の設置についても、教授たちが考えるのかよいかというと、私はNoだと思う。


教授というのは、本来、研究者としての素質を見込まれて教授になっているはずにも関わらず、やっている仕事は全く違う。研究室は中小企業のようなものなので、つまり、教授は経営者なのだ。会社であれば、人事、財務、営業、企画・・・と様々に業務分担されているが、教授はその仕事を一手に担っている。


10人程度の研究室でも研究費が〜1億円/年くらい必要になるので、本来ならば、自分の研究室を運営していくことだけでいっぱいいっぱいなはずなのだ。


企業の不正防止、コンプライアンス対応からアカデミックサイエンスが学べることがもっとあるのではないだろうか。引き続き考えていきたい。


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◆追記 2009/6/2
2007若手教育シンポジウム@横浜で発言をされた方のコメントが研究問題ブログに載っていたので、転載。

(前略)
従来の科学者コミュニティの精神構造から踏み出すには、行政からの指導・支援が必要(あったらいいな)だと思っています。
また、ORIの「ような」組織の提案には、行き場のないポスドクの人材活用と言う視点も持っています。その人材育成に行政の支援というものは不可欠だと思っています。
(攻略)

なるほど、そういう意味だったんですね。私は行政に丸投げしたいと解釈していました。こういう意味でしたらこの意見には賛成です。特に、人材活用の部分本当にそう思います。

しかし文化省担当者の発言にもあるように、率先して機関づくりをすることはないと思います。伝手を使って文化省、厚労省農水省の担当者にヒアリングした結果も同様のスタンスでしたし。各大学で対応機関をつくり、行政に後押ししてもらうというのがベストかと。